福岡県北九州市が今年6月、学力向上に向けた新たな方針として「AI+読書」「体験機会」「脱・暗記重視」の3本柱を打ち出しました。学校現場でのAI活用と、AI時代に必要な言語化力・思考力育成をどう両立するかを考えるうえで参考になる動きでしょう。
3つの柱で学力向上を再設計
北九州市教育委員会は2026年6月29日の記者発表で、学力向上に向けた今後の取組を公表しました。特徴は、単なるICT導入ではなく、AI活用と読書・体験・思考力育成を一体で進める構想にあります。打ち出されたアプローチは、①「AI+読書」の強化、②「体験機会」の強化、③「脱・暗記重視」の3つです。
今回の方針で目を引くのは、AIを学習効率化の道具として使うだけでなく、AI時代により重要になる言語化力や思考力の向上を両輪で進めると明示している点です。基礎基本の定着はAIで個別最適化しつつ、読書や体験を通じて、自分の考えを組み立てて表現する力を育てる設計になっています。
これは、知識の量だけでは差がつきにくくなる一方で、問いを立てる力、比較する力、説明する力が学びの中心になるという学校現場の課題感とも重なります。自治体として「脱・暗記重視」を掲げたことは、評価や授業づくりの見直しにもつながる可能性があります。
AI型学習アプリは7月6日から運用開始
具体策の中核となるのが、AI型学習アプリの導入です。2026年7月6日に運用開始と発表され、7月から本格活用が始まります。
このアプリは、児童生徒一人ひとりの習熟度に応じて最適な問題を出題する仕組みを備えています。対象は小学校5教科、中学校9教科で、問題数は11.4万問。さらに、CBT機能も備えており、日常的な学習からテスト形式の演習までデジタル上で進めやすい構成です。
学校にとっては、反復練習の個別化、つまずきの早期把握、学習履歴の蓄積といった面で活用余地があります。特に、同じ教室内でも理解度の差が大きい場面では、全員に同一課題を課すだけでは十分に対応しにくいため、AIによる出題最適化は授業外・家庭学習も含めた支援策として注目されます。
読書活動を「学力」の土台に位置づけ
一方で北九州市は、AI導入と並行して読書活動推進プロジェクトや学校図書館の魅力向上プロジェクトも進めます。ここには、読書を情操教育にとどめず、学力の土台として再評価する姿勢が表れています。
読書は、語彙力や背景知識を広げるだけでなく、文章を追いながら因果関係をつかむ力、多面的に考える力、自分の言葉でまとめる力の基盤になります。AIが答えを提示しやすい時代だからこそ、問いを受け止め、文脈を理解し、適切に言語化する力の重要性はむしろ高まります。
学校図書館の魅力向上を合わせて掲げている点も重要です。蔵書や展示、導線、利用しやすさが改善されれば、読書習慣づくりは司書や国語科だけの取組ではなく、学校全体の学びの環境整備として位置づけやすくなります。
体験機会の強化が「わかる」を深める
3つ目の柱である「体験機会」の強化は、知識を実感に結びつける取組といえます。見学、観察、地域連携、ものづくり、探究的な活動などを通じて、教科書で学んだ内容を現実の事象と接続する狙いがあります。
体験は、単なるイベントではなく、学習内容を自分事化する装置です。たとえば、理科や社会で得た知識を現場で確かめたり、総合的な学習で地域課題に触れたりすることで、記憶中心の学びから、意味づけを伴う学びへ移行しやすくなります。「脱・暗記重視」を実現するうえでも、体験活動は重要な支えになります。
💡 先生へのポイント
- AI活用は「演習の個別化」に寄せ、授業では対話・説明・比較に時間を使うと役割分担しやすい
- 読書活動は朝読書だけで終わらせず、要約・感想・問いづくりと接続すると思考力育成につながる
- 体験活動は事前・事後学習をセットにし、「何を見たか」より「どう考えたか」を言語化させたい
- CBT機能の活用では、結果を見るだけでなく、誤答傾向を次の指導にどう生かすかが鍵になる
まとめ
北九州市の今回の方針は、AI導入を目的化せず、読書・体験・思考力育成と組み合わせて学力向上を図ろうとする点に特徴があります。個別最適化と、言葉で考え表現する力の育成をどう両立するかは、多くの学校に共通するテーマであり、今後の実践設計の参考になりそうです。
出典:令和8年(2026年)6月記者発表資料 - 北九州市 https://www.city.kitakyushu.lg.jp/contents/k8400548_00030.html




